窓から聞こえてくる。

「こいつの肩をもつのか」「嫉妬はやめてよ」。ある日、部屋(高山プリンティングハイツ505号室)の中で自分の伸びた爪を切っていたら、そんな声が聞こえてきた。気にはなったが、果たして今爪切りを途中でやめてなおかつ、目の前にあるコンロの中で湧いているサッポロ一番塩ラーメンを置き去りにして窓の外を見るべきだろうか?そこまで好奇心旺盛でもないし、ご近所さんの痴話喧嘩など聞いても私の人生に一体どれだけの意味があるのか?ただでさえ今まで時間を無駄に過ごしてきたのだ。料理教室だったり(これは市役所が企画したもので、部屋は豪華感がないし、先生は有名な人だそうで、話自体は面白かったのだけど、部屋の中が公民館なわけで、名前をコミュニティーセンターとか改変したからといって、おしゃれになるわけではないことは明白である、あそこの公民館の職員の女性はたぶん20代ぐらいで結構顔が綺麗なのだけど、とにかくツッケンドンな感じというか、冷たい目で私を見てくるような気がして、どちらかというと私の被害妄想だと思うのだが、とにかく不快なままあの日は帰ってきた)、また英語教室(全然うまくならなかった、教えてくれたのは博士課程のアメリカ・ニューヨーク出身の女性で、発音もよくて顔も可愛いうえにスタイルもよかったのだが、日本語がとても下手くそで、私はひとつも英語しゃべれないのに、ペラペラしゃべってきて、仕方ないので、笑っていたが、ちっともうまくならなかった、しかも彼女は最近彼氏ができたらしく、その話ばっかずっと私にするのだった、家でやれよと思ったが、そんなこといっても仕方ないので黙ってた)、さらにはボイストレーニングコース(1回1万円はないだろ)などいろいろ習い事を繰り返ししてきて、その都度うまくならず、残念な目にあってきたのだった。なんでこうも時間を無駄にしてしまうのだろうか。もっと有益なことがしたい。例えばブルースをかき鳴らしながら愛の告白をするだとか、パソコン講座でも開いてお爺さんお婆さんに尊敬されるだとか。そうすればこんなサッポロ一番塩ラーメンなんて食べずにもっと豪華な食事でもしながら幸せに外の男女のように喧嘩をすることもなく生活できるのに。そこまで考えがいたった途端、突然、冷や汗がでてきた。もしも外の男女にサッポロ一番塩ラーメンを1人で食べているところを見られたらどうしよう。窓をしめようと窓に近づこうと思った。すると爪を切り間違えてうげぇという声をあげて大きな深淵の中に落ちていったのだった。